ポートレートと失われた16年

20111009t01
人生2度目の旅行で小田急線に乗り込み小田原へ、そこから神戸を経由して船で中国へ入り、そのままオランダのデン・ハーグまで鉄道で、つまり飛行機を使わずに大西洋まで行ってきたのは1998年、ちょうど有吉先生がTVの企画で相方とともにユーラシア横断のヒッチハイクをやってすぐの頃だったから、はい、影響を受けてあなたも劣化版として真似をしたのですね、と言われても仕方がないのだが、書店の旅コーナー(るるぶじゃないほう)には、誰それの影響を受けて俺も行ってきた感じの本、旅をネタに写真を撮って本を出す人たちが結構いた。貧しい国の子供たちの写真をたくさん見た記憶がある。戦場カメラマンさんもよく、飴や小銭をあげるからといって子供を撮っている姿をテレビで見たことがある。いや、ブレジネフ政権下のソ連やらミロシェビッチと戦争中のサラエボやらの娼婦に「余計に」お金を払って「写真も」撮った戦場カメラマンさんの人生をかけている具合を今更へええと思う。それはさておき、
 
 
 
20111009t02
当時の猿岩石・有吉先生の今も変わらぬ童顔に浮かぶ不安そうな顔、人としてのパワーの強くなさのようなもの、それにある種の不快感というか、とくにギャグやリアクションやトークが面白かったわけでもなく、それでも芸人なんかをやろうとしている意味が分からなく、使う側も使い方がないからヒッチハイクに行かせるのだろう?というお茶の間上から目線と、その一方である種の同族嫌悪のようななにかを感じていた記憶があるのだけど、それから10年近く過ぎて深夜番組で彼がまだ頑張っている姿を見て、あーこの世は地獄だわ、と思った期間は3日も続かず、すぐに彼が頑張っているのではなく、むしろめっちゃナチュラルに才能を発揮しているのだ、ということを知って随分感動した記憶がある。月日が流れたのだな、とも。
自分は旅をしながら、結局人を撮りたい撮りたいと思いつつも全然撮れなかった。おい、ロシアまでわざわざ来たんだから写真を撮られたいだろう、とおせっかいな人に記念写真を撮ってもらったり、クロアチア魔女の宅急便みたいな街で出会った日本人男女と一緒にバシャリと写った自分の写真なぞ、ぜんぜん見返したくなかったし、実際見返さなかったので、それらとともに撮った風景写真、住所交換して添えられた手紙もろとも、今はどこへ行ったのやら。
 
 
 
20111009t04
その頃自分が想像していた37歳の自分像の中の最悪のシナリオケースの場合よりもかなりレベルの低いオジサンになり、ああもう本当にここまでひどくなるとは想像できなかったんだな、テレビばかり見ていた俺にはこんなひどい人生があるなんて全く考えることができなかったな、という絶望に絶望することにも飽いて、甥っ子と姪っ子ができ、そのカメラマンを頼まれて撮っているときに、ああ、この子たちは俺がどれだけレベルの低いオジサンだかまだ理解していないのだ、カメラを向けるだけで素早くポーズを撮り、ジャンプし、変顔をする4歳男子の才能に驚いたり、まだ写真機の機能を理解できないし夢を見る元ネタも経験もない1歳の姪っこのナチュラル寝顔を撮ったりしながら、うん、人は才能だね、俺は20を過ぎてもこんなに面白く写真に撮られることはできなかったし、努力でどうなるもんでもなかったしな、と思う。実家の猫を見ていても、人見知りする奴としない奴は1歳にならないうちにハッキリ分かる。生まれたときに決まっているのだ、というある種の諦め感覚から少し、生きるのを楽にすれば、それはつまり、自分が今想像している67歳の自分像にリアリティを与えることができるんじゃないかという気がしたり。しなかったり。それはそれとして、
 
 
 
20111009t03
俺がカトマンズのトリブバン国際空港の出口を出るとやれ日本人だ!金くれ!金くれ!と群れ寄って来た子供たちもれいの外出禁止令まで出された暴動に巻き込まれて死んだりとかしていなければ今は20歳を越えるか越えないかになっているだろう。日本に生まれてそういう交渉ごとを自分でやるのが苦手な自分は今日もフレッシュ!撮影会のために埼玉のおっさんになって所沢航空記念公園くんだりまでやってきている。大勢で撮るから安い。大群で移動するから決まった公園でしかできない。決まった公園でやるから皆同じ緑の背景の写真になる。帰宅してアドビのLightroomでシャープネスをかけたりはずしたりしつつもインターネット時代、早速他の埼玉のおっさんがもうネットにアップロードしている。それと俺の撮ったのと、いったいどこが違うというのだ?という煩悶との戦い、あいつは下手クソ、俺はうまい、そこは戦場、それでももうアラフォーになって記憶力も思考力も衰えているので、モデルさんが前回よりも表情のバリエーションを増やしてきた、俺にだけ目線をくれる時間が長い! あひる口には胃がムカつく方だったのに彼女の場合だけ違う!など、勝手な理屈をつけてその場を楽しむことができてしまうレンズ沼の恐怖。そうしてまだ子供たちであったりそうでもなかったりするモデルさんたちが、MAZDAのCMで長友と競演してる!とか、とんねるず細かすぎて伝わらないモノマネ選手権で3位になった!とか自宅の狭いゴミ屋敷のテレビの前で騒いではしゃいで喜んだりしているリアル。37歳。非正規おじさんのリアル。
 
 
 
NIKON D40 (Black)SIGMA 85mm F1.4 EX DG HSMNIKON D40 (Black)SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM
rapidyn560b_0rapidDI466
ND8PROFND8PROFCX4
先日空から降ってきたEOS5DMarkIIにはレンズがついていなかったので、この日持ち出した機材は今のところ気に入っている、いつもの。
デジタル一眼最安にして最後の名機、ED写真ブロガーのデリートオールさんがF11まで絞ってド晴天の真昼間にレフもなしに奥さんの顔を陰クッキリに撮ったためにゼブラ先生に全力でdisられたことで有名*1な2006年製 NIKON D40を2台(噂によると、中古を13台入手してピントのピシャリと合う3台だけを手元に残して残りは買値の1.2倍で売り捌いたらしい)。レンズはSIGMAの大ボケ重杉単焦点F1.4トリオから、色収差補正さえできれば最強の85mmと、ニコキャノ純正がゴミにしか見えなくなる50mm。およそ大勢で囲み撮りをする会においては、35mm換算(つまりAPS-Cセンサーサイズで1.5倍した場合の)127.5mmと75mmがあればちょうど良い。(フルサイザーの135mmや85mmのおっさんやキヤノン厨7Dの130mm、80mmより半歩前に出られるところも良い)オリンパスの新型PENをゲットして標準ズームで見えやしない背面液晶でカチャカチャやってる新人爺に軽く蹴りを入れながら、ホームページでチェックした狙いのモデルは神坂美羽(22)嬢で2回目、カトマンズで俺から500円玉をせしめたガキ共と同い年だ。大人気になることがはじめから分かっているので広角系で寄って撮るとかは厳しいが、そこは戦場、目線をもらっている最中の扇風機みたいな特大口径レンズを構えているニコ爺の前などに入れば後ろから刺されかねないのだ。というのはアレとして、所沢には広大な青空を取り入れるような海辺や丘のシチュエーションはないので、広角系は切捨て。むしろ縦に角度を使ってボケをつくろう、というのが冒頭の写真ですね。。。といいつつ押さえでリコーのコンデジCX4が広角用。で、D40は最低ISO感度が200のCCDなので、最高シャッタースピードでも遅いという場合のためにND8フィルターを2枚持ったがもう真夏は過ぎた。天気も光が拡散して最適な薄曇りなのでこれらは使わずに普通のプロテクトフィルター、こちらもレンズ2本分。ストロボは中国製のマニュアルストロボYN-560が操作性と威力抜群なので1台で済むのだが、付け替えが面倒だったり、生きるのが辛くなるほどの美しい目線をもらっているときに電池切れすると目も当てられないほどにみすぼらしい慌て方になる俺なのでサブとしてニッシンのDi466はフォーサーズ用。←ニコン用を使わないことに意味があるわけだが、ストラップは縦持ちで邪魔にならないブラックラピッドの襷掛けRストラップを50mm用に、金具を流用して自作した短い首かけRストラップを85mm用にする。※本当は使用頻度の高い85mmを襷掛けにしたいのだが、フードが長いのでしゃがむと地面に打ち付ける可能性があるため、逆にした。
このスタイルはここ数回変わっておらず、逆にEOS5D2はストロボ制約があったり、高価で2台持ちできない点などがネック。ほいじゃズームレンズ使うか?ていうと、わざわざ5D2にしてレンズはズームに格下げ、てのも、本末転倒感があり。。。iPhone4sと比較して約25%も画素数の少ないD40で頑張る。レンズだけは一流のところを見せてやるぜ! 旧世代カメラなのでホワイトバランスは太陽光に固定、露出は-1/3EVに補正(し忘れたりしてるけど)でマルチ測光。
 
 
 
20111009t06
休日の一日を潰してまで撮影会に出る3つのパターン。ひとつは新しい機材なりレンズなりの試し打ち。ふたつは未経験のロケーションの試し打ち。みっつは美人だったりかわいすぎたりするモデルさんが出るときの「追いかけ」で、ホトジェニックの美貌てのはまたいろいろと違うところがあり云々。。いや、よっつももいつつもあるが、そのいずれの場合においてもまた、3つなり5つなりの気分の変遷がある。ひとつは前日に満充電して使用レンズに使用フィルタを装着してカバンに入れて時刻表を調べて会場までの地図を押さえて(既知の場所なら別だが)というあたりまでの準備を終えておかなければ朝に弱い車なしの俺には無理だし、ふたつはコンデジでなくデジタル一眼を使う理由が背景ボケであり、ズームレンズを使いたくない自分の機材はどうしてもカメラ複数台体制になってそこそこかさばるし、こんな重たい荷物をぶらさげてストロンチウムの飛び交う東京都を通過するのがダルい。せめて座れる電車に乗りたい・・・みたいな軽度の鬱症状。みっつは高級車で乗り付けてくる正社員カメコたちの高級カメラ、高級レンズ群のそれなりのリアルが充実したトークの波に圧迫される可能性と、撮影スタート後の雰囲気の楽しくないことがままある場合などなど。ともあれ道中のテンションは著しく低い。
 
 
 
20111009t05
11時に撮影開始となり、レフ係担当さんは誰ですかね、の時間になるが、自分の経験値が少ないので担当さんのうまい下手なのか、雲と太陽の都合なのかがよく分からず、とりあえず雰囲気をつくる人か、それともbotさん系か、あるいはお笑い系か。べつにbotさんでも良いのだけど。神坂さんは美人さんだし、前回のときも撮られ慣れていたし、撮影会専属モデルさんではなくて歌もやるしマイナーネット放送のMCもやるしで誰かと極端に仲良くしてまわりにけまい感じを出すタイプでもなく、ものすごい安定感。他にはそういう人はいないのだけれどたぶん、事務所のマネージャーが随行する。ここの事務所さんはアイドル系は彼女だけ?、ちょっと変わったところなのかもしれない。まぁギョーカイのことは全く分からない。ので、比較的早めにピントの具合、オート露出の傾向を把握しつつ。
 
 
 
20111009t07
しかし絶好の曇り空。NIKON D40につないだシグマの単焦点レンズのオートフォーカスは吸い込まれるようにスイッ、スイッと合う。フルサイズの高画素機にしたらばこの「合う」の基準をシビアに見てしまうかもしれないが、まずは中央クロスセンサーの測距、続いて上下の測距でも問題がないと分かったので、好きなようにサインコサイン、背景の具合と太陽の方向を見ながら位置取りを決めて、シャカシャカ取りまくる。撮ったらまた位置を変える。このあたりにくると、家を出たころの鬱な気分は消えてくる。
 
 
 
20111009t08
自分のこれまでの傾向から、ブログ用にしろ、プリントアウトして壁に貼る用(!)にしろ、写真選定の段階で目線をもらっているものを選ぶケースは稀れだったりもするのだがこの日はどういうわけか、ずいぶん長時間の目線をもらった気がする。前回に引き続いてボディが小さくレンズがデカいD40+シグマ単焦点の片手撮りスタイルが珍しくて顔をさされたろうか。んなわけはないか、と思いつつも最近はみんなアメブロだけでなくトゥイッターもやるしはて部ホッテントリボットをフォローしているモデルさんもいるから下手に炎上したら速攻で出禁ものだ。。。
 
 
 
20111009t23
そんなこんなでつつがなく午前の部を終了し、前回カメラを盗まれたパン屋で昼飯。
 
 
 
20111009t10
13:30に再集合する埼玉のおっさんたち。屋外撮影会のカメコトークというのは、いずれにせよモデルさんの話よりもカメラ機材や撮影技法()などがメインになるので、それはまぁはたからの見た目はともかくとして、中にいるのはそんなにつらくない。というか俺は誰とも話さないし話せないのだが。
 
 
 
20111009t11
午後の部、神坂さんは赤い靴に変えてきた。赤い靴のメルヘン感は異常。一気にテンションがあがる。
 
 
 
20111009t12
カバンなど提げてみたり、ちまちまと工夫を凝らす神坂さんに好印象。惚れない奴がメンヘル。バス停などあれば絵になるのに、ここは公園の中。文学部の講義に何年出ていたってストーリーを組み込むのは難しい。
 
 
 
20111009t14
しかしそれにしても、あまりにも多く目線がもらえるので、今日は目線写真オンリィにしようかと迷いだす。また2000枚越えるわ。。。
 
 
 
20111009t15
木が倒れて地面がえぐれ、丸太のオブジェのようになっているのを見つけると、すたこらさっさと小走りし、タオルを敷いて座る彼女。囲みは50人ぐらいいたような気がするけども、ポーズができるとだいたい最初にカメラを構えるのは、単焦点オンリーで撮れる画角の決まりやすいうえに図図しい俺なので、また最初から視線をゲット。
 
 
 
2011100925
さらに続けて視線をゲット。ゲット。5秒。。。10秒。。。まだ俺? 15秒? まだ俺?
怒ってるの? さっきから足ばっかり撮ってるから? あれはあれで、表現の一つであって・・・べつに俺は怪しい産経写真部の者ではないし・・
 
 
 
20111009t16
夏は終わっている。日の暮れはじめも少し早い。bot風のレフさんが公衆トイレの建物をバックに位置決めしてしまうので、仕方なくまわりこんで85mm。
 
 
 
2011100924
同じフレームで50mmだと、こんな絵に。
 
 
 
2011100927
左めから撮っても右めから撮っても正面から撮ってもそれぞれがかわいいのう・・・ほいで、撮り手の反応を見ては、彼女自身も次のロケ地(って公園内だが)を探すさまがすごくよい。親に勧められて、学生時代の思い出に、ひゅんだいアートにかぶれて、写真が好きで、なんとなく、割りのいいバイトとして、撮影会に出てくるモデルさんの動機づけは様々だろうけれども、それぞれに力を入れる入れない具合は結構出る。やる気をこちらから見て見出しにくい人も結構いたりする中で。
 
 
 
20111009t17
たまには前ボケも入れてみますか。
 
 
 
20111009t19
公園撮りは背景がほとんど緑になってしまうので、色を変えられそうなときには積極的に。
 
 
 
20111009t20
そういえば今日、横から撮ってなかった。少し鼻の頭が白飛び気味なのは2006年製センサーの限界か。シャープには撮れているので等倍ならばピアスの穴までクッキリ。とはいえ今時のデジタル一眼レフにはありえない低画素機。ポートレート(とか花撮り)はもっとも高画素数を必須としないジャンルだよなぁと思う。絵の細部に目線を導くようなタイプの風景写真にこそ必要なのが高画素機なんだろう。って高画素の凄いポートレートもあるけども。
 
 
 
2011100926
「残り3分でぇ〜す」の声がする。彼女は、性格的にいうと、ベッキーなのだよな、とか。決して佐々木希風じゃないし、トリンドル玲奈でもない。屋外囲み撮り撮影会の残り3分すなわち15:27あたりはカメコの俺に至福の時間である。決して非モテがどうのとか、67歳の自分のリアルとか、前の案件がうまくいったのは俺の仕切りじゃなくて部下の優秀クンの力だし、まわりもそう評価しているかられいの案件を取られたんだとか、明日はまた無意味な進捗会議だとか、有吉先生が同い年だとか、ヨーロッパを旅した「僕」だとか、韓流スター追っかけ女子と似ている構図だとか、EOS5DMarkIIだとか、ニコンのタイ工場だとか、ストロンチウムだとか、もんじゅだとか、そういうあれやこれやの思考が全く俺を邪魔しない。
 
 
 
20111009t22
そうして終了の合図が聞こえる。終〜了〜。まだ目線をくれる神坂さん。申し訳ない。これで休日が一日終わる。次第に我に返る。良い写真が撮れたのだろうか。良い写真の撮れたという手応えが長い帰路の一抹の淋しさや虚しさを補って余り有杉なときに来て良かったのだと思う。しかし良い写真とはなんだろうか。金くれ!金くれ!と集まってくる子供たちを広角で撮ることが俺にはできなかったけど誰かにはできるだろう。俺が撮りたいのはそれだったのだろうか。それとも今撮っているような写真なのだろうか。それとも、彼女がネットにつぶやく姿・・・毎朝食パンをくわえて駅まで自転車で走る、その姿のほうなのだろうか。それとも、夜に
 
 
 
モデル:神坂美羽
場所:所沢航空記念公園
日時:2011.10.09 11:00〜15:30 曇り
カメラ:NIKON D40 / NIKON D40
レンズ:SIGMA 85mm F1.4 EX DG HSM / SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM
ストロボ:Yongnuo YN-560 / Nissin Di466 (FourThirds)
主催:フレッシュ!撮影会
 

*1:しかし女性にレフ板持たせるとかねーよwwwと真っ当に反応する人もいつつ