なぜだろう

坂を登りたい。
もう平坦な道はいらない。
ひたすら登りたい。
高校生の原チャリにはねられたい。
ヘルメットが粉微塵に割れたい。
古傷の左ひざを地面にしたたか打ち付けて思わず大声をあげてもビアンキの女の子に無視されて抜かれたい。
その声がきもいと自覚したい。
前輪がパンクしたい。
家の外でチューブの交換をしたい。
そしてまた登りたい。
雨が降ってきたい。
汗が目に入っていたい。
足をついたら死亡。
足をついたら人としての価値なし。
足をついたら、はてながどんなに重くなっても、広告の出ないブログ!とうたいながら携帯でアクセスしたら俺を人格批判するような広告だらけになったとしても、はてなの悪口を言う権利はない。
このモジャモジャというわけでもないしツルツルというわけでもない中途半端な足はなんだろう。
なんて無意味なこのフォルム! 男の足の曲線の美しさほどに無駄なものはない。
チャイルドシートに子供を乗せたママチャリに鼻歌交じりで抜かれたい。
黒とオレンジにペイントしたジャイアンツ(笑)のクロスに抜かれたい。
ピナレロはモテモテ。
コルナゴもモテモテ。
ホイールがミシミシ音を立てたい。
サドルバッグが盗まれていることに気づきたい。
リサ・ステッグマイヤーに抜かれたい。
リサに挨拶してみたら思い切り無視されたい。
後ろから抜いていくカップルの乗ったスポーツカーの中から俺をバカにする女の子のトークが聞こえたい。
木々のざわめきもまた俺をdisっているのだということに気づきたい。
空を見上げれば目がつぶれたい。
あ、あれは、エンゾ早川! こんにちわ! 著書、愛読しています! 全力で無視されたい。
君のwwwフォームwww最悪wwwフレームwwwサイズwww合ってないwwwとか言われたい。
頂上へ。
ダウンヒルで風邪を引きたい。
カーブで曲がりきれずに大きくふくらみたい。
ブレーキをつかむ二本の指が疲労でワナワナ震えたい。
ブレーキしないと死ぬと分かっていてもブレーキを引く握力がもうないことに気づきたい。
サイコンの電池が切れたい。
そしてまたパンクしたい。
もう替えのチューブがない。
日が暮れたい。
ヒッチハイクのサインを出しても50台ぐらいの車に無視されたい。
とぼとぼ歩いて帰りたい。
駅に着いたら終電がなくなっていたい。
さっき転んだときにズボンのポケットが破れていて財布がないことに気づきたい。
携帯もないことに気づきたい。
途方に暮れたい。
そんなとき、こんな無謀な計画を立てて山登りになど来なければ、来なかった場合の、俺の部屋でぐうたらしている図の、どれだけ幸せなことか。どれだけ甘ちゃんなことか。
それを知れただけでも良かった、と書いた長文のブログ記事の投稿ボタンを押す前にブラウザがクラッシュして記事が消えてしまえばいのに。