東扇島脳の恐怖   深夜

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知っている人は知っていることなのだろうけど、少なくとも俺はまったく知らなかったのでビックリしてしまったのが深夜の東扇島の姿であり、帰宅後にインターネットに問い合わせてみて、ああ、なるほどなぁと思ったわけだ。インターネットで検索すればすぐに分かってしまうことが残念といえば残念で、もしもそれがなかったら俺はいまだにどうしてあんなことになっているのだろう、なぜこんなことがまかり通ってしまうのだろうという「?」脳のまま過ごしていることになるが、あまりおおぴらに警察に知られていい種類のことでもないから、ただ漠然と「東扇島」を検索するだけでは見つからなかった。自分が大学生のころはインターネットは今のようにはもちろん普及していなくて、いろいろとよく分からないことを分からないまま過ごしていたはずだが、インターネットが普及したところで、検索のためのワードを自分で実際に出かけて見つけてこなければ知ることができない種類の世界もあるんだなぁとしみじみ思った。
 
 
 
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ホンマタカシという人がドキュメンタリーのあり方について、取材を進めていくうちに制作者の事前の計画をはずれてしまうこと、そういうところに意義がある、と書いていてそれはぜんぜん詭弁じゃなくてその通りだなぁと思うわけで、事前の計画の通りにできあがるのであれば実践せずとも取材せずとも頭の中で構成してできあがりにしてしまえばいい、いわば題名だけ読めば本文のいらないブログみたいなものということで、「いかにしてそこを外れるか」という言い方は奇妙な気もするけれどもそういう思いに行き着く人が文学の世界でなく写真の世界にいるのも自然といえば自然である。そうでないものは題名だけをひたすらミニブログにつぶやけばいいかもしれないし、「そこを外れ」たときにだけブログに「アップ」すればいいという考え方もありうる。もちろんドキュメンタリーとブログが違うのか同じなのかとかよく知らない。自分がカメラを持ってどこかに出かけるときに事前の計画と実際の結果の差異がどれくらい出るか、そういうことを考えるとき、とくに自分が完全お一人様行動に徹しているというか、徹しざるをえないゆえか、ほとんど「外れ」ることがないよなぁと自省したりもする。あるいは人は学習するにつれて「外れ」ないように気をつけるのかもしれない。せいぜいパスポートを忘れてイタリア行きの飛行機に乗れないとか、もっと理不尽な理由でマダガスカル行きの飛行機が飛ばないとか、それぐらいのことしかない。どちらが「真実に近い」のか、そんなもんなんでも真実なんだろうが、それでも近いとか近くないとか、そういうのがある、よく分からない。
 
 
 
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先日に東扇島を自転車で走ってみて、あとからグーグルのストリートビューでたどってみると、あれあれれ、もうちょい行けるゾーンはあったのね、ということに気づいたのと、それからどうしても夜に眠れない体質なので、23:00過ぎに家を出て、ふたたび島へ向かった。べつに新たに行けるゾーンに面白いものがありそうにも見えなかったが、少なくとも夜の工場萌え写真は撮れるだろうから、それを撮れればいいやと思って。夜風が気持ちよい季節。また、この時間にスポーツ自転車で国道15号を東京方面へ向かって走る人が少なくないことに驚く。いや驚かない。女性が多いのにも驚かない。それぐらい快適だし、視界が狭い夜ならば速度を出さなくてもスピード感は出る。なかには比較的大きな声でなにかを歌いながら漕いでいる女性もいた。
 
 
 
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川崎区役所の交差点を右折する。東扇島へつながる人道トンネル前は猫スポットとして、その先、島の北側の岸辺は工場撮りのスポットとしてブログでいくつか取り上げられてはいるのだが、そもそも望遠レンズが必要であるという時点で、かつその手前に前ボケを構成すべきなにものもないただの海であるという時点で、あまりフォトジェニックなスポットとはいえないかもしれない。しかしながら俺は写真家ではなく、ただのカメラ好きのオッサンでしかないので、
  (1)眠れない
  (2)深夜の扇島には人が少ないかもしれない
  (3)写真スポットとしていくつか紹介されている
以上3つの<カメラを持ち歩いても逮捕されない可能性の高い要素>のあるゾーンとして、まぁさほど遠くもないし、暇つぶしに行く気になるわけだ。
 
 
 
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夜の千鳥町・・・本州側・・・は、休日の深夜にも、数こそ多くないがトラックが走り、運転が荒く、しかし車が途切れると左右の広大な土地を占める工場群の稼動する高音のゴォォォォォォォォォォという音が非現実感をかもす。こんなものが毎日毎日動いてなにかをしているのだ。なにかをしてくれているおかげでなにかが成り立っているのだろうという漠然とした申し訳なさ感のようなものを感じる。と同時に俺の胃袋はさっき食べたチャーハンを消化しているし、俺の精嚢は意味のない精子工場として今日も無駄な精子を生産し続けている。その性器を押しつぶしながら俺はクロスバイクを漕ぎ続ける。自転車乗りはEDになる可能性が高い。
 
 
 
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あいかわらずスピーカーは、女性の声で、人道トンネル内では自転車を漕がないで、と叫び続けていた。写真を撮っていると、中から一人の男性が自転車を引いて出てくるところだった。今回の行程では、この一人がトンネルで出会った唯一だった。
 
 
 
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人がいない。良い。本当に誰もいなければいいのに。
 
 
 
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まるで吸い込まれてしまいそうな海、とか書きかねない海。写真撮りのお出かけはポエミーに寄るから本当にぷいと飛び込んでしまいかねない。
 
 
 
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午前零時。時間はたっぷりある。まだ三脚を取り出して撮影に入る、ということはせずに、島の行けるところをチェックしてまわろうと思った。ところどころに業務トラックがエンジンをかけたまま停車しており、よく見ると、灯りのあるあたりには、夜釣りをしている人がいた。まったく人がいないということにはならないが、工場の撮影をするには問題ない。釣りの禁止されていないエリアを抜けて、昼にはリア充の人たちのいる公園のほうへ向かおうとしたときに、俺は奇妙な事態に気づいた。
 
 
 
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ブォン、ブォン、ブヲヲヲン、キィィィィ、キキキィィィィィ、ブォォォォン、キキィィキィ、ブォン、キキキィィィィィィ、ブォォン、キィィィ、という音が聞こえた。暴走族だな、と思った。構わない、俺は東扇島東公園で工場を撮るんだ、と思った。ブォン、ブォン、ブヲヲヲン、キィィィィ、キキキィィィィィ、ブォォォォン、キキィィキィ、音がだんだん大きくなった。暴走車が少し見えた。このあたり、立入り禁止の表札の先が立入り禁止の表札のないところから入れるなど、いろいろとややこしいというか中途半端にできているのだが、どうも暴走車の数が・・・俺がいままでの人生や夕方の報道番組で見たことがあるレベルを越えて多いことに気づく。それで怖気づく。のだが、業務トラックも走っているので、まぁ進むことにする。
 
 
 
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彼らは暴走族で、車ヲタであり、俺は写真ブロガーで、カメラヲタである。べつに敵対するものではない。お互い通報されかねない同士、距離を置いて、無関心でいればよろしい。逮捕すべきレベルのものが逮捕されればいいのだ、俺は知らん、そう思って進んだ。撮れるようならば、高感度に耐えうるほうのカメラでなにかを撮って見ようとは思った。のだが、問題は、観客の数、リア充の数、ジャージのズボンみたいなのを履いた女子の数が異様に多いことにビビる。なんなんだよこれは。。。F1レースかなにかの観衆みたいにすごい人だかりになってるじゃねぇか。。。
 
 
 
東扇島 ドリフト - Google 検索
大黒 ドリフト - Google 検索
ようつべに動画があるし、大黒もすごいし、結局このへんの深夜はそういうエリアになっているようなのだった。いや、たまたまイベントというか、祭りの日にぶち当たったのかもしれないが、なんというか、大井埠頭ロードバイクが信号を守るの守らないのと論議してる世界とはレイヤーがまるで違う気がして、そういうものを知らなかった俺は面食らうわけだ。そして女子がなんでこんなに大量につきあってるんだ。。。
 
どう見ても道路交通法を完璧に遵守しているので全く問題がない、というふうにはそれほど言えない可能性のあるかもしれないどうもありがとうございますな人たちと、それを見ている人だかりの方々の数がすごいので、俺はカメラを取り出すことはおろか、そんなエリアに長居はもちろん、そこを通過することもためらわれ、実はそれを目にしたということで消され、あるいはブログに書いたことで、おや?こんな時間に誰だろう?、になるんじゃないかという恐怖感を覚えた。いや、そういう威嚇の意味が含まれた活動なのかどうかは知らぬ。また、これがユーロなりスペインなり日本なり神奈川なり中区なりがこの先オワコン化して暴動が起きた場合の近未来風景に近いのか近くないのかとか、いろいろとまったく見当がつかない。
 
 
 
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そういうわけで、自転車を停止してハンドルを固定して30秒待てば写真が撮れるというオイラもさすがにそのインターバルを取る度胸が出ず、すたこらさっさと海側に近寄ると、そのまま車道を離れて東扇島公園内の敷地に入ってしまった。この公園の深夜の立入りが許可されているのか、いないのかはいろいろ事前に調べたり、現地でキョロキョロしてもよく分からなかった。というかメインの車道があの状態なので、それどころではない気がした。
 
 
 
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公園内にしばらく街灯がなく、自転車前照灯ヲタ先生推奨のLD20の1灯プラス、普通の自転車屋でも売ってるレベルの暗い前照灯の計2灯だけが頼りのオイラは、芝生に突っ込み、よろけながら海辺へ出ることに。もっと遠出する場合ならさらにLD20×2灯とCATEYEも追加するんだが。。。こんな暗いとは。。。
 
 
 
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ようやく工場が見えてきた。いちおう昼間に一度来たから地図は頭に入っている。敢えてノイズ除去しない一枚を掲載しつつ、自転車をとめて、しばし海を見ながらぼんやり。それから三脚を取りだしてセット、さらには大きいほうのカメラをセッティングする。
 
 
 
 
  
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インターネットに写真を掲載するときにEXIF情報というのを付加するかどうかを選べるのだが、あまり機材へのこだわりをぐだぐだ書くと粘着されるので・・・みたいな書き込みをどこかで見かけて、もう俺もやめてしまおうという気になった。いずれ、定価111万のノクチルックス50mmF0.95で撮った写真と定価1万2600円のキャノンEF50mmF1.8IIで撮った写真を比較してもらい、正解を外したら「写す価値なし(写真を)」の烙印を押される写真ブロガー人格付けチェックという案が衆議院を可決してしまったら、参院は簡単に通ってしまうだろうから、あらかじめ逃げておくにしくはない。左端に見えるまるいオレンジ色のゴーストのようなものは、プロテクトフィルターを使用しているせいで出るものなのかどうか試すのをまた忘れてしまった。
 
 
 
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半径100mは静か。しかし遠くには暴走車のドリフト練習のキィィィィィという音がひっきりなしに聞こえている。俺はここでスローシンクロとマルチ発光を組み合わせて吉木りささんを撮る、ということをしたいのだが、もちろんできないので仕方なく被写体としてクロスバイクを置く。ゴーストとの絡みもあるので、何度も移動設置しては30秒露光を繰り返す。
 
 
 
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暴走車のほかには、散水車だろうか、黄色いサイレンを光らせながらゆっくりと走る車がこちらに近づいてくるようにも、近づいてこないようにも見えるので緊張する。べつに罪を犯しているのではなくて写真を撮っているだけなのだが、なんとなくやましい感じと、キモい感じが右下の陰にあらわれている。こんな緊張しつつ苦労もして写真を撮ってもNaverまとめられなければほとんど全く誰にも読まないBlogにアップするだけなのだが、そんなことを尋問されたくない。質問されたくない。こんなことをせずに正社員の座に必死にしがみついてとっとと自殺すべきだったのだといくら説得されようが、できないものはできないのだ。
 
 
 
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ひととおり広角に飽いてから望遠で工場を撮りはじめた。露光に時間がかかるので、そのあいだ海を、カメラとは別の方向の海を見ていた。次第に暴走族の車の音は聞こえてこなくなった。彼らはそろそろ家に帰って前戯をする時間だ。いや前戯なんてしないのかもしれない。全く分からない。彼らが前戯をするのかしないのか、そういうことについて俺はなにも知らない。象について何かが書けたとしても、象使いについては何も書けないかもしれない作家がいるように、俺は暴走族のセックスを想像することはできても、前戯については全く分からない。象のセックスについては昔カトマンズの国立公園で見たことがある。ものすごくどうでもいいし無理があるしつまらない。かくて非モテの夜は長い。
 
 
 
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カシャリ、30秒すると露光が終わる。そろそろ静かになってきた。車道のほうへ戻っても大丈夫かもしれない。公園のさらに先、東端のほうにも行って見たかったが、女性の若い笑い声などが聞こえたので(深夜の音はもろもろよく通るのだ)行かないことにした。前戯の最中では困るし、そうでないとしても困る。車道に面したトイレに人が大勢出入りするのが遠くに見えたが、公園内のトイレは閉鎖されており、誰もいない。
 
 
 
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あの建物の先から聞こえるのが笑い声。あの建物の左側にさっきのベンチがあり、あの建物の右側に車がいる。
 
 
 
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物流会社の巨大駐車場に向かう車が暴走車なのか業務用車なのかよく分からない。出入りは激しい。下のほうには紫やら赤やら黄色やらにきらめく、ヒップホップな音楽?をかけている車がたくさんいるように見えた。
 
 
 
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昼間ならばたくさん人がいるのかもしれないベンチも長く露光すればこの通りハッキリと見えるのだが、実際には真っ暗なので俺は膝をしたたかぶつけてウウッという非常にキモい声をあげた。その声が東扇島の公園内に響き渡った。
 
 
 
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はたして、車の数は減っていた。俺は落ち着いて車道わきの歩道を通って、彼らの入ってこない釣り人エリアへ戻ってきた。釣り人エリアとドリフトエリアが完全に分離されていることは、東扇島スレにも書いてあった。それをあとで読んだ。
 
 
 
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地震津波もこわくない、天使も夢も背を向けるありむーの街、川崎CITYの東京電力川崎火力発電所は今大変忙しいので社会科見学できない。今見学できるのは浜岡なり柏崎なりの原子力発電所だろう。
 
 
 
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倉庫。ジャスコじゃなくて倉庫なのだ。
 
 
 
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立入り禁止の門。この柵の向こうが車道で、こちら側には人道トンネルの出入り口がある。だから自転車の俺は最初から立入り禁止のゾーンにいるような感じで、つまり車に対する禁止柵であり、つまりはドリフトカーが入れないようにしているような具合なんだろうか。
 
 
 
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3時を過ぎると、目が慣れたのか、日が昇りつつあるのか、明るくなってくる。
 
 
 
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工場萌え。いつかどこかで見た、シグマのなんとかいうカメラには本当に勝てないのだろうか。こいつは寄れてないし白飛んでるし圧縮してるし縮小してるし、いつか本気を出して撮りたい。
 
 
 
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産業道路を帰る。
 
 
 
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振り向けば朝日が迫ってくる。
 
 
 
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夜が明けた。
 
 
 
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帰って、風呂に入って、そのまま出社である。